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この時間の公園は人っ子一人いない。周辺の雑居ビルもマンションも静かで、この世から隔絶されたような感覚に陥る。
「それで、何かありましたか?」
「まぁ…初めて会った時にちょっと気になったんで」
あの一瞬で気になることがあったのか。私としてはなんなのか見当もつかない。
私の考えていることが伝わったのか、分かんないっすよねと笑いながら言われた。金髪の人は持っていた袋から缶ビールを取り出し、一口飲んだところでまた話を始めた。
「なーんか似てるなって思ったんすよ。こっちの世界に来たのは自分の意思なのに普通になりたいって願ってしまう、そんな感じがしたんすよね」
「…まあ、大方そうですね
似てるってことは貴方も?」
「昔はね…今はこっちが普通になっちゃったし仲間もいるからね」
そう言う横顔はなんだか寂しそうで儚かった。眼鏡の奥にある瞳にはなんでもお見通しにように思えた。
「そういやまだ名乗ってなかったですね。きりやんって言います
表では桐島って名前です」
「私はAAです。お店では麗って名前でやってます」
お互いに名乗り終わると特に話すことも無く、沈黙が生まれた。いつもなら気まずいと思うのに、何故かこの沈黙が心地よい。ちゃんと話したのは今日が初めてなのに、きりやんさんといる時間がこのまま続けばいいのにと思った。
「…じゃあ、もう夜も明けそうですし帰りましょうか」
「そうですね」
「最後にひとつだけ良いですか?
夜の蝶にこんな事言うのはあまり良くない気もしますけど、Aさんが籠を抜け出してみたいって思ったら、連絡ください
…正直、貴女が欲しい、です」
眼鏡越しの真っ直ぐな瞳に見つめられ、思わず息を飲む。
それと同時に心臓がドクドクと脈打ち始め、鼓動が早くなる。
言葉に詰まっている私を見兼ねてか、きりやんさんは私に恐らく電話番号が書かれているであろう紙切れだけを渡し、背を向けて去っていってしまった。
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作者名:葵 | 作成日時:2024年3月12日 0時